日本の東証上場企業の筆頭株主は日本銀行であり、第二位はCity Bankグループ や JPモルガンなどの外国金融資本
[四季報で見つけたら要注目!日本一長い名前の銀行の正体とは]
1.[「日本の金庫番」たる、資産管理特化型信託銀行]
「日本トラスティ・サービス信託銀行」「日本マスタートラスト信託銀行」「資産管理サービス信託銀行」は、四季報で出会いやすい。
一見して事業内容を理解できそうにない3行の正体は、資産管理業務に特化した信託銀行だ。
より具体的には信託銀行は年金・投資信託などの運用を委託され、ファンドの有価証券の保管・管理業務などを請け負っている。
日本トラスティが管理している信託財産は240兆円で、うち株式保有は54兆円。
日本マスタートラストは190兆円で、うち株式は24兆円。資産管理サービスの信託財産は141兆円だ。
巨額な資産を管理している。いわば日本の金庫番だ。
3行自体の大株主は主にメガバンク系だ。
日本トラスティの場合、三井住友トラストHD <8309> が66.66%、りそな銀 <8308> が33.33%保有している。
日本マスタートラストは、三菱UFJ信託銀行が46.5%、日本生命が33.5%、明治安田生命と農中信託が10%保有している。
資産管理サービスは、みずほFG <8411> が54%、第一生命23%、朝日生命10%、明治安田生命9%、富国生命4%の保有。
グループ内の年金やグループ内の投信の委託を多く受けているはずだ。
試しに、日本で一番時価総額が大きいトヨタ <7203> の大株主(2016年3月末時点)をチェックしてみよう。
筆頭株主は、日本トラスティで約10.74%保有している。保有株数は3億5861万株。時価にして2兆円だ。
続いて第2位の大株主に豊田自動織機が入った後、3位の日本マスタートラストが約4.46%、9位の資産管理サービスは約1.91%保有している。
四季報などを眺めてみるとほとんどの大型株には3行が大株主として入っている。
なぜ3行の名前を大株主に見かけたら要チェックなのだろうか?
3.[3行の後ろに控える大口顧客とは?]
年金や投資信託が、運用や管理を資産管理専門銀行に委託するメリットは、管理コストを下げるというだけでなく、実質的な株の買い手の匿名性を保つという役割も果たしている。
もしGPIFが管理会社を使わずに株を買い、5%ルールなどの大量保有報告書で、同社が買っていることがわかれば、提灯買いがつくことは必死だ。
それこそ市場の公平性を欠く可能性があり、年金資金の運用成績にも悪い影響を与える可能性がある。
資産管理専門銀行はあくまで委託を受けたものなので、そのバックに実質的な株主が存在する。
すでに話が読めた読者も多いと思うが、資産管理専門銀行にとって最大の顧客は、GPIFなど公的資金・準公的資金を運用している通称「クジラ」なのだ。
3行が大株主になっている銘柄は、GPIFや日銀が買い続けている銘柄である可能性が高い。
たしかに、マスタートラストがトヨタを2兆円保有しているが、トヨタを2兆円買える機関投資家はそうはいるものではない。
もちろん公的資金が買うほどの銘柄なので悪い銘柄ではないのだが、株式保有の需給が偏っている可能性があることには注意しておきたい。
4.[年金基金は中長期の息の長い投資をする]
GPIFは日本の公的年金のうち、厚生年金と国民年金の約140兆円を運用する世界一の機関投資家だ。
クジラとは、公的資金のGPIFの他に、準公的資金と言われる約30兆円の3共済年金、約300兆円のゆうちょ銀行とかんぽ生命の日本郵政系の資産、
そしてETFを年間3.3兆円買っている日銀の資産をあわせた総称だ。
GPIFの資産140兆円のうち、株の比率が23%程度で約30兆円。
3共済の株式の比率はGPIFに準じている。郵政系資産は株の比率はまだまだ低く、民営化とともに株式比率を上げてくる可能性がある。
GPIFは長期の分散投資として、株や債券のアセットアロケーションを決めている。
したがって、基本的には株が大きく下げたときに買い、大きく上がった時に売り、リバランスをする投資スタイルだ。
株式市場が大きく下げたときは外国人の大口の売りに対して信託銀行の買い手口が目立つのは、クジラの手口が信託銀行にでるためだ。
逆に今後株価が上げたときには、大口の売りを出してくる可能性が高いと言えるだろう。
5.[日経平均企業の9割の大株主は日銀]
GPIF以上に問題なのは、日銀かもしれない。
リーマンショック後の2010年から日本市場の安定化のために、日本株のETFを買い始めた。
足かけ5年にわたりETFを爆買いしているために、2016年3月までに累計株式保有額は、8.6兆円に達したと推定されている。
国内に上場する日本株ETF全体の55%を、買い占めしている状態だ。
日銀は日々のETF買い入れ結果を発表しており、購入しているETFの所有銘柄の比率から、日銀の実質株主比率を想定することが可能だ。
たとえば、ミツミ電機 <6767> の日銀の推定保有比率は約11%に達していて、すでに実質筆頭株主になっているようだ。
ほかにも、テルモ <4543> 、ヤマハ <7272> 、大和ハウス <1925> 、住友不 <8830> 、三菱マテリアル <5711> でも上、位3位内に入る保有率であるようだ。
日経平均の寄与率が最も大きいファーストリテイリング <9983> も、日銀が約9%保有している。
6.[クジラの大量保有も、いつかは売り圧力となる]
年金資金はあくまで長期運用だ。
ただ手口があまりに株主構成が偏ると、浮動株が減って需給がタイトになり、上がりやすくなってしまうこともありえる。
また公的資金といえども、いつかは株を売らねばならない。
GPIFはその運用スタイルから、日本株が上がり始めれば、今度は売り方に回ることは明らかだ。
中央銀行である日銀も、いつかは日本株を売らなければならない局面もあるだろう。
資産管理専門銀行が大株主に入っている株を買うときは、こうした需給関係を考えて買う必要がある。
面白い見方としては、新興市場など中小型株で資産管理専門銀行の名義がある時だ。
基本的に公的資金は資金が大きいため、パッシブ運用に近い形をとっている。
ただ一部を、アクティブファンドの中小型株でも運用している。
小型株に資産管理専門銀行の名義があった場合、公的資金・準公的資金のファンドがアクティブ運用の銘柄として、組み込んでいる可能性があるかもしれない。
たとえば、マザーズのサイバーダイン <7999> は、マザーズ銘柄でありながら、時価総額が約2874億円もある銘柄だ。
決して、日銀が買うETFに組み込まれた銘柄ではない。しかし、2016年3月末時点で日本トラスティが4.24%で第3位の大株主だ。
もちろん実質株主は不明だが、大手年金か大手投信の可能性が強いだろう。
海外の運用管理を行う銀行の会社を「カストディアン銀行」という。
大企業の大株主として、海外のカストディアン銀行も頻発する。
クジラの影と合わせて、こちらも注意してみると面白いだろう。
(ZUU online編集部)